日が沈む前には到着できそうだ。
しかし自分の体力値というものを、この日のボクは理解していなかった。
え?後ろの犬もしかしてボクに向かって吠えている?
昨夜は寝台列車で夜をすごし、そのまま午前中はタージマハルを観光。
さらにバス移動となれば、怪我している足が悲鳴を言わないわけが無い。
もっとも辛いのは足ではなく、貧血だ。
血が体全体に上手くめぐってこないから、ぶっ倒れそうになる。
バスがジャイプルに着くころには、宿を探して歩き回るだけで嫌になる。
何も調べてこなかったボクは、
オフライン地図アプリ「MAPS.ME」の中にある宿情報だけを頼りにさまよい歩く。
たどり着いた先は、ちょっとリッチなホテル街だった。
恐る恐る中に入って料金を確認すると、1泊3500円ほどするホテルだった。
バックパッカースタイルでインドでこれほどの金額は、もはや高級ホテル並みです。
付近のホテルを4軒回ったが、どこも同じような金額。
この辺りで泊まることは諦めて、別のエリアまで歩くことにしたが、
ここで自分が想像以上に弱っていることに、あることをきっかけに思い知らされた。
それは、この旅で初めて犬に吠えられたことだ。
狂犬病が恐ろしいので、ボクはいつも
「イヌコロなんぞに負けるか!」
と強気でいました。
東南アジアにネパールやインド、今まで吠えられることなんてなかった無かったのに。
今まさに後ろから犬の吠える音が鳴りやまない。。
まさか自分のことではないはずだと、振り返ってみると、
しっかり威嚇されていた。
しかもそこまで大きくない一般的サイズな野良犬に。
犬には分かるのだ、この時ボクが心身弱り切っていることを。
オーストラリアを放浪中にも、歩き疲れて弱っていたとき、鳥に襲われそうになったことがある。
動物はバカではない。
しっかり人間を観察しているのだ。
ボクは持っていた飲みかけのペットボトルを振り回して、なめてかかってきた犬を追い払う。
一度追いやっても、しばらくすると後をついてきた再び吠えられる。
それを繰り返していくうちに、
「もうこれ以上宿さがしは危険だ、さっきのお高いホテルへ泊まろう」
そう思い、さきほど断った4軒のホテルのうちで、1番スタッフが温かかった所へ戻った。
1泊3000円クラスは、インドにいることを忘れてしまいそうになるくらい清潔で、
エアコンはガンガン効いて、Wi-Fiはビュンビュン。
シャワーの水圧も強くお湯もでる。
いったん心休まったところで、日が沈む前に水を買いに行くことにした。
ホテルからは徒歩数秒、目の前にある小さな売店へ、半ズボンにサンダルで出かけた。
この服装のチョイスが、再び恐怖を味わうことになった。
足元を守る装備の大切さ
日本では心配の少ないことですが、海外では
狂犬病、マラリア、ベッドバグなど、
これらの危険から身を守る必要があります。
なのでボクは本当に心を許した(安全だと思った)場でしか、半ズボンになったりサンダルを履いたり、肌を出すことは極力ありませんでした。
どんなに蒸し暑くても。
いつもジーパン姿に、靴はクルブシまで守ってくれる厚めのトレッキングシューズを履いています。
すぐ目の前の店に水を買いにいくだけだから、ラフな部屋着で出かけたところ…
ふたたび犬に吠えられる、1日で二回も、しかも今回のワンコは黒毛のデカい奴だw
さらにボクの足元は無防備だ。
ガブっと一発クルブシを噛まれたら終わる…
1対1の緊迫した空気に包まれる。
当然ながら、この時ボクが所持していたアイテムは小銭と部屋の鍵だけ。
とても戦える装備ではない。
鍵をチャラチャラ振り回したり、地面を踏みつけたりして犬を威嚇したが、
効果はいまひとつ、というか余計になめられる。
ビビッってしまったボクの心拍数の速さまで、犬はお見通しのように少し勝ち誇った様子で吠え続ける。
そしてさらに状況は悪化する。
店の扉は鍵が閉まっていて開かない…
日は沈むころ、当然閉店の時間だ。
海外で犬にかまれ、病院送りにされたという旅人仲間の悲話を思い出す。
終わった。生きた心地がしないとはこういうことか。
「何か欲しい物あるのかい?今開けるからちょっと待ってな。」
店の隅っこの方から、女性の声が聞こえてきた。
助かった。
しかし、「ちょっと待ってな。」と言った女性は、神様にお祈り中だった。
それが終わるまでは、この狂犬とにらみ合いで負けるわけにはいかない。
数分後だろうか?かなり長く感じたが、
ようやく店を開けてくれて、ボクは犬に背中を見せないように後ろ歩きで入店した。
店主とボクが仲良く会話しているのを確認したのか、犬はどこかへ去っていった。
さいごに
今回はじめて海外で犬に戦いを挑まれました。
1対1だったし、逃げる所もあったから良かったものの、
もし集団のイヌ達に、逃げも隠れもできない何もないフィールドで襲われていたら、やられていたかもしれません。
野犬に襲われるリスクが極めて少ない日本という島国が、あらためて安全なところだと実感させられました。